北海道情報大学 西平順学長 -栄養管理とヘルスリテラシーの重要性-

北海道情報大学 西平順学長に独自インタビュー

栄養管理は心身ともに健康であるために欠かせない重要な要素です。日頃の食生活や生活習慣を見直すことで、病気の予防をしつつ、健康な身体を維持したいと考えている方も多いのではないでしょうか。

そこでこの記事では、北海道情報大学の西平順学長になぜ栄養管理が重要なのか、日頃からできる栄養管理のコツも併せてお話を伺いました。

独自インタビューにご協力いただいた方
西平順学長

北海道情報大学 医療情報学部
西平 順(にしひら じゅん)学長

専門は内科学、免疫学、糖尿病。

1979年北海道大学医学部医学科卒業後、神奈川県横須賀米海軍病院にてインターンに従事。同年に医師免許取得(第246754号)を取得後、北海道大学医学部内科学第二講座医員となる。

1984年に米合衆国ノースカロライナ州ウェークフォリスト大学付属ボウマングレイ医学部研究員、1986年に北海道大学医学部生化学第二講座助手、1992年に北海道大学医学部中央研究部講師を経て北海道大学大学院医学研究科にて助教授を務める。

その後、2006年に北海道情報大学経営情報学部医療情報学科教授、2015年に北海道情報大学副学長を経て、2021年より現職。

目次

栄養管理はなぜ重要なのか?

一般社団法人日本スポーツ広告協会編集部:まず初めに、栄養管理がなぜ重要なのか、栄養管理が健康に及ぼす影響を含めて教えていただけますか?

西平学長:まず初めに、健康を維持するためにはしっかりと栄養素を摂る必要があります。

この考え方が基本です。バランスの取れた栄養成分を摂って、日常生活を健康に生きるためにも栄養管理というのはとても重要です。

例えば、我々の筋肉を作っているのはたんぱく質ですね。エネルギーの素となる脂質も糖質も重要です。これらは三大栄養素と言われています。

三大栄養素に加えてビタミンやミネラルの2つの栄養素が加わり、様々な栄養素をバランスよく摂ることで、身体的な機能だけでなく、精神的な機能をも健全に動かすことができるのです。

一般社団法人日本スポーツ広告協会編集部:栄養素をバランス良く摂ることが健康の第一歩なんですね!逆に、栄養不足が進んでしまうと心身はどうなってしまうのでしょうか?

西平学長:例えば体内のどこかの栄養素が足りなくなると、別の部位に負担がかかってしまい体はバランスを失い正常に機能しなくなります。

こうなった場合、身体的・精神的に正常な状態ではなくなってしまうので、これを避けるためにも栄養素をバランスよく摂ることは重要だと言えます。

一般社団法人日本スポーツ広告協会編集部:栄養素をバランスよく摂ることは確かに大切ですが、意識していないとかなり難しいようにも思います。

西平学長:そうですね。特に若い人であれば体力や精神的な面で余裕があるので、多少バランスが取れていない食事でも活発な体内の代謝でうまくカバーしてくれます。

そのため、若い人は少々アンバランスな食事をとっても比較的健康ですし、多少の負担がかかってもそれを自覚することが少ないかもしれません。このような理由で、若い人にはあまり栄養管理を意識しない人が多いのかもしれません。

ただ、アンバランスの状態が長く続けば若い人でも体調不良や病気に繋がっていく点には注意が必要です。若年性の糖尿病などを例に考えると分かりやすいでしょう。

若い人は過食によりカロリーを摂りすぎたとしても、それに対して膵臓からインスリンを分泌して血糖値が上がらないように体が対応する、いわゆる予備能力があります。

しかし、インスリンを分泌する膵臓の細胞も、長期間の過食による過剰な負担とともに分泌機能が落ちてしまいます。そうなってくると、若い人でもカロリーを摂りすぎると糖尿病になってしまうのです。

これは筋肉でも同様で、若い人は高齢者と比較して筋肉量が多い分、たんぱく質を摂らなくても予備能力によって急激に筋肉量が落ちるということはありません。

しかし、年齢を重ねるにつれてたんぱく質を合成する力が落ちてくるので、軽い運動やたんぱく質の多い食事をしっかり摂るなどしてバランスよく栄養素を補う必要があると思います。

このように、栄養管理をする場合には世代のステージごとに栄養素を考慮した食事内容を考えていかなければならないのです。

一般社団法人日本スポーツ広告協会編集部:世代のステージというのはどのように区別できるのでしょうか?

西平学長:大きく考えると、18歳以下の世代、18歳から40歳以下のいわゆるAYA世代、それ以上の世代に分けられると思います。

例えば、AYA世代というのは先ほどお話したように働き盛りで、健康機能の予備能力が高い世代といえます。一方、子供や高齢者になると、それぞれ発達や老化防止に必要な栄養素を摂る必要がありますが、多くの場合学校や高齢者施設などで栄養指導の機会を受けることのできるなどの時間と社会基盤があるかと思います。

しかし、そういった栄養指導などのサポートに比較的関心の低いのがAYA世代です。職場健診で健康障害を指摘されても、多忙な仕事に追われ、食生活のバランスが乱れていても栄養指導を受ける必要性を感じていない方が多いと思います。

AYA世代は、そのような生活環境でも体調不良を感じることも少ないことから、当然ながら栄養管理の意識は薄くなっていきます。このような背景もあり、食生活の極端な乱れによる栄養摂取の長期的なアンバランスが原因と思われるAYA世代の健康問題が注目されています。

現代の食生活と栄養管理

一般社団法人日本スポーツ広告協会編集部:確かに、現代の食生活は大きく変化していますよね。実際、食生活が変わったことによる課題としてはどういったものが挙げられるのでしょうか?

西平学長:過食になりやすい、あるいは栄養がアンバランスになりやすい環境が身の回りにあることでしょう。

象徴的なものとしては、やはりコンビニが挙げられると思います。コンビニの食事というのは簡単に手に取りやすい一方で、高カロリーで低栄養素のものとなっている食材が比較的多いように感じます。

こういったものは超加工食品とも言われていますが、美味しく食べやすい食品を提供するために加工の過程が増え、食材がもともと持っている栄養素が失われてしまいます。

これが原因となって、栄養がアンバランスになってしまいがちなのです。

一般社団法人日本スポーツ広告協会編集部:コンビニのご飯は手軽で便利ですが、しっかりと栄養バランスを考えて購入するべきですね。ちなみに、アンバランスな食事を摂り続けると我々の体はどうなってしまうのでしょうか?

西平学長:そうですね。アンバランスな食事を摂り続けた結果、若者のフレイル(心身の働きが弱くなってきた状態)が急速に増えてきています。

女性の場合だと、体重増加を気にしすぎて過度な食事制限により、筋肉量が落ちてフレイルになってしまっている方が増加しています。一方、男性の場合は暴飲暴食による過体重の割合が増え、糖尿病などの生活習慣病が増加しているのです。

これまでフレイルというと痩せたイメージがありましたが、実はBMIが25を超えている過体重で筋肉量の低下を伴うフレイルに当てはまり、増加傾向にあります。

こういった現状は、栄養不足や過食によるアンバランスな食生活が主な原因であると考えられます。

一般社団法人日本スポーツ広告協会編集部:高齢者の方だけでなく、若年層でもフレイルが増えてきているのですね!こういった現状を改善するにはどうすれば良いのでしょうか?

西平学長:やはり、ヘルスリテラシーを身に着ける機会を増やす必要があると思います。

先ほどもお話したように、子どもや高齢者の方は栄養について学ぶ機会、つまりヘルスリテラシーを身に着ける機会として、学校での保健指導や地域の健康に関する公開講座などが比較的多くあります。

一方、AYA世代の方は、仕事、家事、子育てなどヘルスリテラシーを身に着ける時間と機会が少ないと思います。

最近は健康アプリなどで栄養に関するアドバイスがもらえるようにもなってきましたが、どの程度正確なメッセージが伝わっているかは、検証が不十分な点が多いかと思います。

また、健康に意識がある人とそうではない人、健康意識の二極化が拡大しつつあるように感じています。このような状況で、健康に関する意識の低い人に対して、どのようにリテラシー教育の機会に参加してもらうことが課題となっています。

一般社団法人日本スポーツ広告協会編集部:健康意識の二極化は大きな問題だと思います。これは若い世代の方に限らず、どの年代でも意識すべきポイントですよね。

西平学長:そうですね。高齢者であっても健康意識の十分ではない方も少なからずいます。孤食という言葉があるように、周りにサポートする人がいないことで食事がアンバランスになり、病気になってしまうリスクが高くなるのです。

また、この問題は子どもであっても同様であり、家庭での食による健康教育は重要です。夏休みなどに体重が減るなど、経済状況などによって栄養摂取が十分ではない事例も耳にします。大きな社会問題かと思います。

このように、社会保障をちゃんと受けられる人たちは問題ないのですが、どの世代にも取り残された人がいることは大きな課題です。

そのような観点から、全世代について栄養管理に対するそれぞれ特有の課題があると思います。世代ごとに栄養管理の問題を共有し、アドバイスの内容や方法などはそれぞれの特徴を明らかにし、対応しなければならないでしょう。

栄養管理のコツと必要な知識とは?

一般社団法人日本スポーツ広告協会編集部:健康意識が高い方の中には、サプリメントを利用されている方もいると思います。実際、栄養管理においてサプリメントはどのように活用していけば良いのでしょうか?

西平学長:健康維持に不足している栄養素をサプリメントで補充するというのは合理的で、効果的だと思います。

例えば、日本では十分に足りている、もしくは過剰になっている栄養素は塩分だと言われています。しかしながら、他の栄養素については個人差があるものの必ずしも十分に摂取していないケースも多く見られます。ただし、サプリメントや単一の栄養素の安易な摂取は過剰摂取にも繋がり、健康被害をこともあり注意が必要です。

肉体的にも精神的にも過度のない通常の生活スタイルだと問題ないことが多いですが、激しい労働やスポーツをする方であれば、必要な栄養素が不足することがありますのでその分は補う必要があります。他にも、妊娠していたり、あるいは外食が多くて栄養バランスの良い食事を摂れなかったりする場合にも、足りない栄養素が出てくることがあるでしょう。このような不足しがちな栄養素については、サプリメントなどを上手に使うことも良いかと思います。

ただし、まずはバランスのとれた食事をすること、正しい情報を基に自分に足りない栄養成分を知ることが大切です。もちろん、サプリメントを摂りすぎてもいけません。

そもそも、私たちの体は1つの栄養素を摂れば不調状態が解決するわけではありません。また、サプリメントを過剰摂取した場合、多くの場合不要になった分は体外に排出されますが、蓄積により体の機能低下を起こすかもしれません。

ですから、バランスの取れた食事で必要な栄養素を摂ることがもっとも理想的です。サプリメントでコントロールするのではなく、まずは必要な栄養素を摂取できるバランスのとれた食生活を大事にしていただきたいと思います。

一般社団法人日本スポーツ広告協会編集部:生活のバランスをとることは意識していないと難しいですよね。特に高齢者の方が意識するべきポイントというのはあるのでしょうか?

西平学長:年齢を重ねると筋肉量が減少すること、あるいは生体機能を安定に保つための自律神経やホルモンによる恒常性の機能低下により外部からのストレスに対しての反応する力が低下してきます。筋肉量とタンパク質を例にお話ししましょう。

筋肉量を低下させないためには、たんぱく質をしっかり摂ることが重要です。また、朝昼晩の3回の食事でたんぱく質を必要量摂ってほしいと思います。

食事調査の結果から、朝昼晩の中で最もたんぱく質が摂れているのが夕食とされています。それに対して、朝食でのたんぱく質摂取量は十分ではありません。

夕食後から就寝、起床までの間に体はたんぱく質も使ってエネルギーを作りますが、朝になるまでにそれがすべて消費され、体が飢餓状態になってしまいます。

そのため、朝は足りなくなったたんぱく質を十分補う必要があります。具体的には、納豆や豆腐、マグロなどを食べ、必要かつ十分なたんぱく質を一日の始まりに摂っておきましょう。

このように、どのタイミングでどの栄養素を摂るかという「時間栄養学」は非常に重要です。この点を意識しながら栄養管理を行うと、効率良くバランスの取れた体を作ることができると思います。

一般社団法人日本スポーツ広告協会編集部:これからは「いつ食べるか」という点もより意識しておきたいですね!ちなみに、季節や気候によって栄養管理のポイントは異なるのでしょうか?

西平学長:当然、暑い時には水分を十分補給し、寒い時には体が温まる食事を摂ることは大切です。これまで、血液検査などを指標に夏と冬に比較研究した経験がありますが、季節や気候による大きな変化はありません。ただし、寒暖差が激しい北海道では、冬に体重が増える傾向があります。これは我々の体が脂肪を増やしエネルギーを溜めるなど、生理的な反応として体が機能していると考えられます。

このような経験から、体調管理には季節に出回る地域の食材をうまく活用することは大事であると考えています。それぞれの食材にはポリフェノールをはじめとした「機能性成分」というものがあります。これは3大栄養素とは異なり、我々の体調を調節する機能性を持っています。

地域の食材に含まれる機能性成分を活用して、体調の管理に役立てることも良いかと思います。このような食材の持つ有用性に関する知識も持ち合わせているとより健康的な心身を作ることができるのではないでしょうか。

一般社団法人日本スポーツ広告協会編集部:ありがとうございます。ここまで一般の方々の栄養管理についてお話していただきましたが、スポーツ選手の場合だとまた異なってくるのでしょうか?

西平学長:そうですね。私の専門領域ではありませんが、スポーツ選手の栄養管理は大きく違うと思います。

スポーツ選手は体作りもありますので、必要なたんぱく質の摂取量も一般の方とは全く違います。また、スポーツの種類によっても食材や量も異なる思いますが、専門的なスポーツ理論に基づいて栄養素を補っていく必要があるのではないでしょうか。

私たちのこれまでの研究例を挙げると、過度な運動の場合、エネルギー消費と共に体内に活性酸素などが過剰に産生されます。活性酸素は、血管などにダメージを与えることが良く知られていますが、ポリフェノールを有する食材を摂取することにより過剰な活性酸素を除去し、パフォーマンスの向上に繋がる可能性のある研究成果があります。このように、スポーツドクターや管理栄養士の方々が科学的なエビデンスのもとに、丁寧にケアするべき領域になるかと思います。

一般社団法人日本スポーツ広告協会編集部:日常生活とは異なる点が多い分、適切な知識を持つ方からのサポートは必要不可欠ですよね!

最後に、栄養管理をする上で注意すべき点などがあれば教えていただけますか?

西平学長:食材のもつ機能性や健康維持の増進に役立つ科学的な研究成果について、情報を蓄積し、データサイエンスに基づいた栄養管理が重要だと思います。

信頼できる情報をもとに、正しく健康対策ができることがヘルスリテラシーです。

そのためには、しっかり栄養管理をするためには研究が必要になるでしょう。昨今は、間違った情報がSNSなどに大量に出ているので、それを鵜呑みにすることは非常に危険です。

栄養学は体と栄養素の相互作用を学ぶ学問領域であり、食材や栄養素の多さと複雑な体の仕組みを理解する必要があるため、大変難しい研究領域です。一つ一つ研究成果を積み上げて、その成果を活用することがヘルスリテラシーを身に着けることになります。

リテラシーレベルが上がっていくと、自分自身で健康に良い食材の選択ができるようになります。

栄養バランスについて科学的エビデンスに基づいて食生活を自ら見直す大切さ、また生活背景を考慮したそれぞれの世代や個々人への細かな栄養指導をすることなど、食と健康に関する教育はこれからますます重要になってくると思います。

2024年3月14日 記事公開

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