愛知学院大学 梶浦雅己教授 -知的財産権の役割とは?企業戦略における重要性を徹底解明-

愛知学院大学 梶浦雅己教授に独自インタビュー

知的財産権は、企業が創造性やイノベーションを保護し、競争力を維持・強化するための重要な資産です。

また、知的財産権は、企業独自のアイデア、製品、サービスを守るための法的権利をもたらします。

そこで今回は、愛知学院大学の梶浦教授に、企業が知的財産権を活用して企業戦略を築く方法について詳しくお話を伺いました。

記事の最後には、ビジネスに慣れていない方でも安心して起業に取り組む方法について触れていますので、是非ご一読ください。

独自インタビューにご協力いただいた方
梶浦雅己教授

愛知学院大学 商学部 商学科・大学院 商学研究科 教授
梶浦雅己(かじうらまさみ)

北海道大学卒業後、大手日本食品企業や欧米多国籍企業2社でグローバルビジネスを経験する。その後、横浜国立大学大学院へ進学。

現在は、愛知学院大学商学部・大学院商学研究科教授を務めている。

受賞歴として、2018 ALBERT NELSON MARQUIS LIFETIME ACHIEVEMENT AWARD、日本貿易学会奨励賞が挙げられる。

目次

企業戦略における知的財産権の利点と課題

一般社団法人日本スポーツ広告協会編集部:最初に、梶浦様の研究テーマである「知的財産権」について伺いたく存じますが、知的財産権とは一体どのようなものなのでしょうか。

梶浦教授:知的財産権自体は、企業や個人が発明したり開発したりしたコトやモノであり、それらの新奇性などが審査され、同様な登録がなければ、占有して権利化できるのが知的財産制度です。

1970年以降になるとアメリカを中心として知的財産権を経済に結び付けていくというプロパテント政策が進められ、知的財産権戦略は企業レベルの取り組みばかりではなく国家政策戦略となりました。

また、知的財産権の対象は工業所有権、著作権ですが、特許権、意匠権、商標権、著作権などが挙げられます。

一般社団法人日本スポーツ広告協会編集部:著作権は馴染みがあるのですが、特許権、意匠権、商標権は具体的にどのようなものなのでしょうか。

梶浦教授:特許権、意匠権は一般的に商権と呼ばれており、お店や製品のデザインや形状などと関連しています。商標権は、企業のロゴなど識別的な記号やデザインを保護します。これらは皆さんもよく見たり聞いたりしていると思います。

一般社団法人日本スポーツ広告協会編集部:なるほど、具体的な例を挙げていただきありがとうございます。お店や製品などのブランドや外観の保護に重要な役割を果たしているのですね。

例えば、企業戦略において知的財産権はどのような役割を果たしているのでしょうか。

梶浦教授:知的財産権は企業戦略の選択肢と関係があります。知的財産権を利用して攻撃性と防御性・保護性を築いて、企業ビジネスモデルを強固にするための重要な選択肢となります。

例えば、製造業やサービス業においても、マーケティングや技術開発を基盤とすることは間違いなく、知的財産権戦略そして応用戦略となる国際標準化をビジネスモデルに組み入れるようなことが挙げられます。国際標準化によるビジネスモデルについては、あとで解説します。

近年の有力な米国多国籍企業、例えば、Google(グーグル)、Apple(アップル)、Facebook(フェイスブック、現メタ)、Amazon(アマゾン)、Microsoft(マイクロソフト)の大手企業5社を指す「GAFAM」などでは、コストとリスクの低減化を徹底し、研究開発やマーケティングに巨額資金を投入しています。

調査によれば、多国籍企業は諸活動(調達、開発、製造、流通、販売、サービスなど)をグローバルに分散することによって、バリューチェーンのコストとリスクを削減し最適化して利潤を最大化しようとします。

ところが、コスパを考えると、製造はリターンが低く、OEMするというように外部委託生産をしたほうがコスト削減できるので、コスパの良い開発とマーケティングへ集中投資ができます。例えばマーケティングが上手なアップルは自社工場を持っていないことは有名です。

OEM(Original Equipment Manufacturing)

他社(委託者)のブランドの製品を生産すること、または生産するメーカー

一般社団法人日本スポーツ広告協会編集部:ありがとうございます。知的財産権は企業戦略において不可欠な要素なのですね。

ちなみに、知的財産権には一般的にどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。

梶浦教授:知的財産権のメリットの基本は、先に述べたような点を、効を奏するようにすることです。詳しくはあとで紹介します。

デメリットとしては外部からの攻撃にさらされることです。

知的財産権内容は権利化すると、官報で公開され公表されてしまいます。核心の部分は容易には理解できないように工夫してから申請されていますが、内容が外部へ露呈してしまうかもしれないというリスクが生じます。

そうなると、ライバル企業に巧妙に模倣されてしまう可能性や、特許侵害権を主張してくる専業企業が仕掛けてくるトラブルに巻き込まれたりします。特に後者はグローバル企業を悩ますトラブルとなっており、パテント・トロール(特許の怪物)と言われています。

パテント・トロールは合法と違法のすれすれに近い手法です。簡単に言えば、特許法の目的である産業の健全な発展や発達などを全く意に介さず、特許制度を都合よく濫用して利益を上げようとする企業のことです。

具体的には、これからずっと使われるような類似の知的財産権を前もって他社から沢山買い集め、大手企業の知的財産権との類似性を見つけ出し、侵害されているとして訴訟をチラつかせ、莫大な和解金を取得するというビジネスモデルを採用する企業のことを指します。

2000年代には、こうした特許権の濫用が顕著になり、大きな社会問題となりました。

例えば、日本の大手企業に対して、「貴社が使用している知的財産権は当社が既に保有しているものです。権利侵害ですね」といったブラフとも言える脅迫的主張がなされるということです。その後、交渉の場で和解を提案され、巨額の金銭支払いを要求するのです。

一般社団法人日本スポーツ広告協会編集部:非常に恐ろしいですね。

梶浦教授:裁判を利用する戦略もあります。例えば最近の知的財産権に関する裁判の例として、「金鳥(KINCHO)」ブランドで有名な「大日本除蟲菊」は、自社の特許権を侵しているとして、「アース製薬」が販売する製品の製造や販売の差し止めを求めて、東京地裁に提訴しました。

この知的財産権はおそらく実用新案というものです。今のところ公表された内容からは、本件がどのような意図をもって提訴されたかは不明です。一般論として知的財産権侵害を巡る提訴はライバルをけん制する戦略として行われる場合もあります。

つまり、戦略的にライバル企業をけん制したり警告したりする手段として裁判が利用されます。ビジネスはしたたかです。

一般社団法人日本スポーツ広告協会編集部:なるほど。時には警告という意味合いで提訴される場合もあるのですね。ビジネス界の競争は厳しいと感じます。

また、少しお話は変わりますが、梶浦様が現在の研究を始められた経緯についてお伺いしてもよろしいでしょうか。

梶浦教授:もともとはグローバル企業戦略の研究に取り組んでいましたが、2010年頃から、産業政策としても知的財産権に注目が集まり始め、先ほども少し述べましたが、特に先端技術分野での国際標準と知的財産権の関係が強調されるようになりました。この動きが、私が知的財産権に関する研究を始めるきっかけとなりました。

また、経済産業省などの政府行政機関が国家戦略として知的財産権を重視し、標準化に取り組むプロジェクトを立ち上げたのですが、そのプロジェクトに参画してから、非常に密度の高い調査ができたことが研究の始まりです。

そのようなきっかけから知的財産権の研究を始めて、かれこれ15年くらいになります。

一般社団法人日本スポーツ広告協会編集部:ありがとうございます。非常に長く研究されているのですね。

グローバル化が企業の知的財産戦略に与える影響

一般社団法人日本スポーツ広告協会編集部:梶浦様は、国際ビジネスやマーケティング、それに伴う知的財産の研究も行われていると伺っております。

近年グローバル化が進む中で、国際市場での競争が活発になったという印象があります。そこで、グローバル化が企業の知的財産戦略に与える影響についてお伺いできますでしょうか。 

梶浦教授:知的財産権の申請自体は世界的に右肩上がりです。中国、米国、日本、韓国、ドイツがベスト5であり、GDPが世界上位を占める国々であることがお分かりかと思います。つまり、経済成長と知的財産権件数は相関するといってよいと思います。

特許庁「2022年度知的財産白書」(韓国版)によれば、「産業全般におけるデジタルトランスフォーメーションの加速化を受け、主要国はAI・データなどデジタル先端技術の主導権を握るために強力な知的財産政策を展開している。知的財産分野における標準化の先取りに向けた動きを見せている」とされています。

日本市場を例に挙げると、日本企業が停滞する国内市場に留まり続けることは望ましくなく、グローバル化しないと将来は厳しいという見方があります。これからの日本経済は世界的に見て伸びしろが限られており、むしろマイナスに向かっているという意見もあります。

日本のGDPはドイツに抜かれて世界4位に後退し、人口動態は労働人口が減少しているため、「8がけ社会」になると言われています。このような状況下で、日本企業は衰退する日本市場よりも、伸びしろの大きい外国市場への進出を積極的に考えるべきでしょう。

外国でも通用するビジネスモデルを構築するためには、ビジネスやマーケティングを強固にするためにも知的財産権の攻撃性と防御性・保護性を戦略に取り入れる方が有利であり重要です。

一般社団法人日本スポーツ広告協会編集部:ありがとうございます。そうした状況を考慮した上で、企業は海外進出時に知的財産権を確保すべきでしょうか。

梶浦教授:その通りですが、新興国では知的財産権制度の整備が不十分な場合もあるため、注意が必要です。実際に、技術とサービスの例を挙げて、グローバル戦略の観点から解説しましょう。

中国企業の著作権違反(海賊版や偽ブランド)はよく知られていますが、先述したようなパテント・トロールなども知的財産権関連で厄介なトラブルとなることがあります。例えば、良品計画がMUJIブランドに関して、現地企業との訴訟で、中国本土でのビジネスが停滞した事例があります。

この場合は、良品計画が日本で事前に知的財産権を取得していたため、中国での訴訟に勝訴できたのです。そうしたトラブルを最小限に抑えるためにも、事前に知的財産権の取得を検討することが重要です。

その後、米国でも、2015年以降は行き過ぎたプロパテント政策を改善しようとする動向もあります。知的財産権には攻撃と防御の二面性があり、企業戦略として万全の対応をしないと、グローバルビジネスで手痛いトラブルに巻き込まれてしまいます。

特に中国では、今でも日本で制作した商品をわずかに変えて登録することが、依然として行われているとされています。こうした点には注意が必要です。

知らない間に、たまたま他の国で自社と似た商標が存在することもあるので、事前に調べておくことが重要です。もしも、知らずにその商標を使ってしまった場合、訴訟に発展する可能性もあるでしょう。そして裁判で負けてしまった場合は、その商標は使えなくなってしまいます。

使えなくなった商標を若干変えて使用するというのは、進出国で登録して正式に認められれば合法的にはアリであり、もし認められない場合は全く使用できません。

実際、巨額の賠償金が一般的なアメリカなどで訴訟を起こされると、日本の企業は金銭的にも期間的にも大変な負担になってしまいますし、せっかく開発した製品が外国で販売することができなくなる可能性もあります。

先述しましたように、強引で脅迫的なパテント・トロールは問題視されています。そのやり方からパテントマフィアともいわれています。

実際、これはあまり表には出ず、知らない人が多いのですが、大手企業はかなりの損害を被っています。かつてNHKテレビ番組で報道された例として、セイコーエプソンが米国企業から訴訟を起こされ、それが名高いパテント・トロールであるAcacia Researchという企業で、結果的にはセイコーエプソンが和解提案に応じた事件があります。

このように進出国で地元企業が知的財産権を侵害されているとして提訴を主張することがあります。示談せよと脅されることがあるのです。

ややこしい事態に巻き込まれることは、海外で事業を展開する際によくあることです。そのため、事前に調査を行うことが重要です。

示談金の額は企業によって異なると思いますが、例えば、引退したスポーツ選手などの場合、限られた資産から支払われることになります。結果として、ビジネスを行えなくなる可能性もありますし、資産だけを巻き上げられる可能性もあります。

ですから、海外でビジネスをする際には、ややこしいトラブルに巻き込まれないためにも、知的財産権に関するリスクを考慮することが重要です。

一般社団法人日本スポーツ広告協会編集部:確かに、これは事前に調査しておかなければなりませんね。また、事前に調査しても、相手方から反論を受ける可能性も考えられますね。

梶浦教授:その通りです。特に大手企業ではよくあります。面倒なことに巻き込まれると、数年が経過することもありますし、大手企業ほど評判の毀損が大きくなるため、示談に持ち込むことが多いようです。

また、今述べたことは、トラブルが発生した際にどのようなリスクがあるのかという話ですが、知的財産権を企業戦略に取り入れることで、いくつかのメリットがあります。

1つ目は、コンソーシアムによる効果が期待できるということです。

技術開発の複雑化・複合化やシステムの大規模化、サービスの多様化に伴い、全部の知的財産権を単独一社で全部開発して完成させることは不可能です。

したがって、近年では複数の企業、団体、研究機関、政府機関などが連携し、協同開発して事業化することが一般的であり、こうした提携組織はコンソーシアムやフォーラムと言われています。また国際標準化すれば国家産業政策にもリンクします。

例えば通信分野だと、AIや携帯通信の5Gでは技術開発が色々と必要であり、1社だけでは全てを開発はできません。

このように、例え規模の小さいベンチャー企業であっても、決め手となる新奇な知的財産権を開発していればコンソーシアムで重要な役割を果たしていくことができ、新市場で確固とした地位を得ることができるでしょう。

「山椒は小粒でピリリと辛い」戦略と言えば分かりやすいかもしれませんね。

一般社団法人日本スポーツ広告協会編集部:ありがとうございます。ことわざで例えていただくとより理解しやすいです。

生成AIの分野で言うと、生成AIツールとして有名な「ChatGPT」を作った「OpenAI」も、元々は小さなベンチャーだと聞き驚きました。

梶浦教授:色々な大手の企業と結び付いていき、あそこまで成長したということなので、間接的にはコンソーシアム効果が開発に影響を与えていると言えるかもしれません。

また、コンソーシアムと関係するのがパテントプールという手法であり、要するに「同床異夢でのシナジー効果」が期待できます。

この「同床異夢」という言葉は、同じ場所にいながらも、異なる考え方や目標を持つことを意味しています。

コンソーシアムで出来上がった知的財産権は製品化する場合には、知的財産権技術を搭載して利用されますが、技術などの知的財産権数が相当数になっています。

例えば、ある企業が8K対応TVを新たに開発し製造しようとすると、様々な技術を利用しなければ実現できません。つまり、先述したコンソーシアムのようなものを作って、50社や60社という多数の技術を全て使わないと8K対応TVは作ることができません。

しかし、それぞれの知的財産権権利企業と相対して交渉するのは大変ですから、発明側はパテントプールとして一括管理する組織を作って権利を管理していきます。そこを窓口として利用側は対価である一定の利用料を支払うことで、ワンストップで利用ができます。

このように、ベンチャーがパテントプールに知的財産権をノミネートできれば、知的財産権管理が容易になります。

一般社団法人日本スポーツ広告協会編集部:なるほど。一括して管理することで非常に効率的ですね。

梶浦教授:また、技術などの知的財産権を国際標準化することにより、その標準に準拠するために不可欠な特許を「必須特許」と言います。

つまり、国際標準化によって、世界中で共通の規格が確立されるということです。

簡単な例で申し上げると、例えば、A4用紙などA版のサイズというのは国際規格です。ご存じでしたか?一方で、B5用紙などのB版サイズというのは日本独自の規格なのです。したがって、世界共通に利用する文書をワードで作成するという時はB5用紙でなくA4用紙に設定する必要があります。

一般社団法人日本スポーツ広告協会編集部:そうなのですね。知らなかったです。

梶浦教授:他にも、国際標準には色々なものがあります。例えば、交通信号機には赤・黄・緑の3色が割り当てられています。それから、非常口のマークも国際標準なので、世界中が同じマークを使用しています。

なぜなら、いざ日本で災害が起きた時に非常口のマークが統一されていないと、外国人が避難経路を見つけることができずに困るからです。このように、国際的なコミュニケーションや安全性の確保において必要なものは、国際標準化されています。

一方で、国際標準化されずに、非常に困ったものとして、携帯電話が挙げられます。携帯電話(スマートフォン)は、今や世界中で使用され、外国旅行に行っても日本と通信することができます。しかし、以前は異なる通信技術を使用しており、国や地域によっては相互に通信ができないことがありました。

また、外国旅行に行って、ヘアドライヤーを使おうとコンセントを見ると、日本のコンセントとは形が異なっており困ることがあります。

さらに、電圧も国々で異なるのです。日本では100Vですが、海外では200Vが一般的な場合もあります。こうした違いは昔に各国が独自に決めたものであり、古くから存在しています。そのため、今となっては、いまさら変更はできないので国際標準化できず、変換器やアダプターを使用して対応しています。

こうしたことを今後は避けるためにも、WTOは自由貿易などの支障を非関税障壁として、技術やサービスなどを世界共通にすべく、国際標準化を推進しています。その結果、先述した携帯電話の通信など、様々な分野においてボーダーレスな繋がりが容易になりました。

技術やシステムの複合化は、製品・サービスの相互互換性のための国際標準と、その中の必須特許が重要となります。もしも、企業の所有する知的財産権を必須特許として国際標準化することができれば、さらにベネフィットは拡大します。

国際標準はISOなどの国際機関で民主的に決定されていきます。企業の知的財産権が国際標準に取り込まれれば、グローバルにその知的財産権が利用されるわけですから、企業の権利者としてのベネフィットは拡大します。

例えば、QRコードは誰でもご存じの二次元コードという技術ですが、元々はデンソーがトヨタグループ生産現場で利用されるコードとして開発した社内コードでした。それを国際標準化してグローバル化したことでビジネスが拡大しました。

一般社団法人日本スポーツ広告協会編集部:私たちが日常的に利用しているQRコードは、そのように普及していったのですね。

梶浦教授:そうですね。例えば、デンソー製品としてコンビニやスーパーで使用される読み取り機やプリンターなどの機器があります。これらの製品には、自社の特許であるQRコードや読み取り技術が組み込まれており、非常に多くの販売実績が達成されています。

つまり、デンソーは国際標準化の際に必要とされる知的財産権を所有しており、その技術がこうした機器に組み込まれることで大きなメリットを享受しています。QRコードを便利に利用してもらいつつ、デンソー機器が売れるというわけですね。

また、キャラクターも同様です。キャラクターを商標や意匠として知的財産化することで、そのキャラクターがブランド化して商品が売れるということですね。さらに言えば、知的財産化して保護しないと、悪用されてコピー商品が出回る可能性があります。

一般社団法人日本スポーツ広告協会編集部:実際にそういった商品をよく見かけますが、コピー商品が出回ることには、そういった背景があるのですね。

梶浦教授:最後にもう1つ、国際市場を見据えたおすすめの知的財産戦略として、「クロスライセンシング」があります。これは、知的財産権を多く持つ企業が、互いに所有する知的財産権を相互利用したい場合に有効です。

クロスライセンシングとは、他社が所有する知的財産権の利用に関して、金銭支払いではなく、交渉によって自社の知的財産権利用と交換利用することに合意できれば無償とすることができる仕組みを意味します。

知的財産権権利が多数となるとベネフィットは極大化します。クロスライセンシングを行うことで、お互いにコストを削減し、効率的に資源を活用することができ、双方の利益を最大化することができます。

一般社団法人日本スポーツ広告協会編集部:ありがとうございます。特許に関しても色々な戦略があるんですね。

梶浦教授:そうですね。このようなクロスライセンシングは企業間で一般的に行われていますが、これも一般の人々にはあまり知られていないことです。企業間の取引や先述した示談など、一般にはあまり報道されない事項もたくさん存在します。

デジタル時代における知的財産権の落とし穴

一般社団法人日本スポーツ広告協会編集部:先ほども「ChatGPT」などで少しお話に上がりましたが、AIなどデジタル分野の発展に伴う知的財産権の課題についてお伺いできますでしょうか。 

梶浦教授:現在、実世界と仮想世界が混在する社会状況において、知的財産権は多くの課題を抱えています。商標使用は元々、製品に商標を直接に付けることが主な目的でした。

しかしながら、インターネットやデジタルトランスフォーメーションの時代に入り、商標の使用は多様化し、侵害の形態も多様化しています。さらに言えば、インターネットやデジタルメディアを通じた商標使用は、メタバースの仮想空間まで広がっています。

したがって、様々なデジタル商品やバーチャル商品が流通し、実物商品の所有権が十分に管理されておらず、アプリ、プログラムのサブスクリプションやアップロード・ダウンロードなど、デジタル世界での商標使用が増えています。このような状況下で、知的財産権の権利保護は実世界のそれよりも遅れているのが現状です。

さらに、日本の貿易収支のうちサービス収支の赤字が増加しており、その中でもデジタル関連の赤字収支が大きいとされています。このことは、日本人がGAFAM関連企業に多額な支出を行っていることを意味しています。特に、AmazonやApple製品やサービスの利用を多くの人は自覚しているのはないでしょうか。

AmazonやAppleに課金として支払ってもらうのは構いませんが、そのお金は実際にはアメリカの企業に流れていきます。つまり、気付かずに米国企業のビジネスに貢献する形で、日本の利用者がアメリカのビジネスをサポートしているということです。

一般社団法人日本スポーツ広告協会編集部:確かに、Amazonなどは多くの人がよく利用しますよね。普段何気なく利用しているからこそ、本当にびっくりな話ですね。

梶浦教授:そうですね。日本企業がかすんでいく理由の1つでもありますし、円安傾向であることは仕方ないかもしれません。

一般社団法人日本スポーツ広告協会編集部:今の状況は本当に厳しいですよね。

梶浦教授:米ドルが基軸通貨であるというのは重要です。決済では、円が米ドルに両替されて、米国企業であるAmazonやMicrosoftに支払われるということです。

Windows11へとアップグレードする際に支払う場合の料金も同じです。そのお金が円から米ドルにされて、皆さんからMicrosoftは米ドルを得ることになります。日本のサービス赤字収支とは、徐々に外国に日本のお金が流出していくということなのです。

一般社団法人日本スポーツ広告協会編集部:日本の政府や企業は本当に厳しい立場に置かれていますね。

梶浦教授:ただ、そう言っても仕方がありません。消費者は便利でスマートな海外サービスをどんどん使っているだけなのですから。

ベンチャー起業家はJETRO活用を!

一般社団法人日本スポーツ広告協会編集部:お話が少し変わるのですが、弊社では現役のスポーツ選手が引退された後のキャリアも支援しており、実際、多くの現役選手が引退後に飲食店などの事業に挑戦しています。

例えば、スポーツ選手が引退した場合は、知的財産権の視点から見てどのようなビジネスがおすすめなのでしょうか。

梶浦教授:そうですね。これまで述べてきた通り、知的財産権は攻撃性と防御性の両面にわたります。メリットとデメリットはありますが、コストとリスクという両者のバランスを企業の考え方や市場地位に応じて活用したほうが良いでしょう。

例えば、スポーツ選手を引退された方であれば、なにか選手自身に関係することをビジネスと結び付ける意匠権や商標権にするようなこともできそうですね。とは言え、実際に起業したいと思っても、何も分からない人も多いと思います。

そこで、小規模なベンチャー起業家が馴染みのない知的財産権戦略を行うためには、JETRO(ジェトロ)の活用をおすすめします。経済産業省の外郭機関であるJETROは、グローバルビジネスを企てたい起業家が詳細に、無料で相談できる場所なのです。

例えば、引退したスポーツ選手などが新しいビジネスに取り組みたいと思ったら、JETROに相談に行くと、本当に役立つアドバイスをもらえます。JETRO以外でも、世界中にそういう相談機関はありますし、日本にも多く存在します。専門のサポートを受けることで、ビジネスに馴染みのない人でも安心して起業に取り組めるでしょう。

一般社団法人日本スポーツ広告協会編集部:無料のサービスがあるというのは本当にありがたいですね。

梶浦教授:勉強会や相談会などで、専門知識を持つ人たちがサポートしてくれるので、とても役立ちます。スポーツ選手などは、是非このようなサービスを受けることをおすすめします。

また、年齢制限はないので、学生でも大丈夫ですし、実際に学生の方も利用しています。このようなサービスの存在を知らない人が多いのが現状なので、全国に事務所があるので気軽に相談をしてみて活用してはどうでしょうか。是非、ホームページをチェックしてみてください。

2024年3月17日 記事公開

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